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社員を採用した時、最初の数カ月を【試用期間】としているケースはよくありますが、その正しい取り扱いは、意外に知られていないことが多いです。今回は【試用期間】についてまとめてみました。
◆ 試用期間とは?
社員の人物・能力等を評価して本採用するかどうかを決定するための一定期間を、試用期間と呼びます。通常は、正社員は期間を定めない長期雇用(無期雇用)を前提に採用しますが、面接だけでは本人の能力や性格・仕事への適格性などについて十分に把握することは困難なので、一定期間働いてもらって長期雇用するにふさわしい人物かどうかを判断するわけです。
法的には『雇用契約の解約が留保されている期間』といわれ、会社が社員としての適格性に欠けると判断したら、労働契約を解約することができます。
試用期間について規制する法律の規定はありません。したがって、労働者を採用するに当たって試用期間を設けるかどうかは会社が自由に決めることができます。
◆ どれくらいの期間を設定すればいい?延長はできるの?
期間があまりに短いと適格性の判断はできません。3カ月〜6カ月程度が一般的です。例えば1年以上の長い期間での試用期間を設けることは、合理的な理由がなく長期にわたる試用期間の設定として民法90条に定める公序良俗に反し、無効となる可能性があります。
(ブラザー工業事件 名古屋地判昭59.3.23)
試用期間の延長については特例措置となりますが、延長すべき相当の理由と就業規則等上の根拠があれば可能です。病気で欠勤が多く業務への適性が十分に判断できない、もう少し改善できるか再チャンスを与えたい、という場合に会社の裁量により延長できるよう規定を定めておくとよいでしょう。延長するときには、満了期間前までに十分な期間をあけて本人に通知するようにします。
◆ 試用期間中は各種保険の加入をしなくていいの?
ご存知のとおり、従業員を採用したら(労働条件によりますが)「労働保険」と「社会保険」の加入義務が発生します。これは試用期間を設けた場合も同様です。「試用期間中は社会保険がありません。」というお話を耳にすることもありますが、これは法律上NGです。試用期間の始まりが入社日であり、各種保険は【入社日より】加入義務が生じます。有給休暇の付与日数についても、試用期間の当初から採用されたものとして計算します。
◆ 試用期間中は、いつ辞めさせても良いの?
試用期間だからといって、いつでも簡単に辞めさせることはできません。また、試用期間終了後に本採用をしない本採用拒否は、事実上の『解雇』になりますので、下記??を忘れてはいけません。
①解雇予告が必要になります。
就業規則等で試用期間を3カ月、6カ月と定めていたとしても、雇い入れ日から14日を経過すると解雇予告制度が適用されます。(労働基準法第21条)また、社員の適格性がないと判断した場合、「少なくとも30日前に予告する」又は、「平均賃金の30日分以上を支払う」必要があります。
②合理的な理由も必要です。
通常、従業員を解雇する場合には、客観的で合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければなりません。しかし、試用期間満了後の本採用拒否は、本採用後の解雇と異なり、会社側に広い裁量が認められているとされています。この点は試用期間のメリットです。就業規則に本採用取消事由を記載しておくとよいでしょう。
ただし、試用期間中の途中での解雇については、その必要性・緊急性が強く求められます。残りの期間も働いていれば会社の求める水準に達した可能性もあるとして、解雇が無効とされた事例もあります。
◆ どのような事例なら本採用拒否(解雇)が認められるの?
具体的な、本採用拒否(解雇)の事例をみてみましょう。
解雇事由 | 内 容 | 解雇有効の判例 |
勤怠の不良 |
注意しても無断欠勤や遅刻早退が多く、出勤率が悪いなど継続雇用に不適格が認められる場合 |
試用期間中の出勤率が90%未満、もしくは、無断欠勤3日以上した場合には本採用しない旨の内規がある中で、出勤率が90%未満であった。
日本コンクリート事件判決(津地裁昭和46.5.11) |
業務遂行能力・ 知識の不足 | 上司の指示したとおりの仕事ができず、教育指導しても他の従業員の試用期間レベルの能力に達成できず向上心が認められない場合 | 試用期間を延長して4カ月にわたり教育指導するもミス続出
三井倉庫事件(東京地裁平成11.7.2) |
勤務態度
|
勤務態度が悪く、職場の規律を守らず同僚に対する協調性が全くない。言動等で周りの者に不快感を与えるような場合 | 業務習得に熱意がなく上司の指導に従わず協調性を欠く行動が続いた
大同木材工業事件(松江地裁昭45.10.6) |
虚偽の記載 |
採用条件及び従事する予定の職務に重大な影響を及ぼす経歴の詐称がわかった場合 |
学生運動に従事していた事実を身上書に記載せず、面接の際にも秘匿したことが詐欺に該当し、管理職要員としての適格性がないとした
三菱樹脂事件(最大判昭和48.12.12) |
本採用拒否が認められる為にも、本採用の要件を就業規則等に定め、周知徹底しておくことが必要であり、万が一のトラブルに備えて、①事実関係を証明する客観的な資料 ②改善指導を行ったときの記録資料は、必ず残しておきましょう。
試用期間中は、会社は従業員を教育・指導する義務があるので、その努力をしたかどうかが問われることになります。
◆ 有期雇用契約を結ぶ方法も有効
期間の定めがない労働契約での試用期間でなく、2カ月や3カ月等の期間を定めた有期雇用契約を結んで、適性を判断した結果、無期契約に移行させる方法もあります。契約期間満了時に、下記の3つの中から選択することになります。
①正社員として採用する
②もう一度契約社員として更新する
③期間満了で契約終了する
この場合、期間満了時に有期契約が当然に終了する旨の合意が必要です。当初の雇用契約書に必ず記載しておきましょう。③を選べば、契約が終了するだけですので、解雇の問題は生じません。注意事項としては、『試用期間とは異なる有期契約であることを、採用時に説明しておく』、『正社員との業務や責任の範囲等に違いをつけて管理する』必要があります。正社員として採用の際は、新たに雇用契約書を結び直しましょう。
試用期間での解雇は比較的認められやすいとはいえ、解雇はできるだけ避けたいものです。入口である採用段階で、人物を見極める努力は当然必要になってきます。また、試用期間を上手に活用するためにも、試用期間の定めを就業規則等にしっかりと記載することが必要不可欠です。再度規定をチェックすることをお勧めします。
文:伊藤マユミ
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